発達性協調運動障害とは

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 先端作業療法学講座
入江 啓輔

発達性協調運動障害は、知的な発達に遅れはなく、筋肉や神経、視覚や聴覚などにも明らかな異常が認められないものの、日常生活における協調運動が、年齢に応じて期待されるものと比べて、不正確で時間がかかる、ぎこちないなど、いわゆる不器用といわれる状態です。具体的には、靴紐が結べない、ボタンをはめられない、転びやすい、キャッチボールがうまくできないなど、その症状は個人によって異なります。「不器用」といっても、人によってとらえかたは様々で、解釈は一定しないことが多いです。我々は、簡易にかつ定量的に不器用を調べ、支援する方法を検証するために打点アプリを開発しました。1秒間に1回のペースで円の中心を打点するというシンプルな課題で、円の中心を打点するほど、高得点になります。打点した時間を考慮した補正点数によって、協調運動の問題を客観的に捉えることができます。また、右側の円のように中心を1秒間に1回のペースで点灯させることで、視覚的な情報により、打点する場所が中心に集まり、さらに打点する時間も1秒間に近づくことが分かりました。
現在は、1秒間に1回のペースでメトロノームを聞かせることによる、動作の変化に着目しています。

手は「第2の脳」と言われるように脳と密接な関係があります。脳の中で運動を指示する「運動野」、感覚をキャッチする「感覚野」があり、運動野は全体の約3分の1、感覚野は全体の約4分の1が手に関与しています。脳は手に運動の指示を出し、手はその運動を通じて得られる動作や感覚情報を脳に送り返します。このように手と脳はお互いに刺激しあいながら学習(変化)しています。我々は、Virtual Reality(VR)による手のトレーニング空間を構築しています。その中で、運動計画や感覚のフィードバック情報を任意に操作することで、手のパフォーマンスや脳に与える影響を検証しています。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻では、科学研究費助成事業および国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援を受け、発達性協調運動障害に対する不器用さを治療する運動アプリケーションを開発中です。打点アプリのような簡易的な評価結果を受けて、子どもたちが苦手な運動を確認し、その運動に必要な要素を段階的に支援していきます。

現在の取り組みとして、運動の問題がある、ないに関わらず、幼児期から学童期までの子どもを対象として体力測定会を開催しながら、子どもたちの「心と身体の発達」を調査しています。2021年から株式会社Ecoldとの共同研究にて、放課後等デイサービスにおける子どもの運動機能の評価と運動イメージや心理尺度との関係を調査してきました。また、事業所向けに勉強会を企画・実施しています。

本学には作業療法士や理学療法士が多く在籍しており、Movement Assessment Battery for Children-Second Edition (MABC-2)やBruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency Second Edition (BOT-2)などの専用評価キットも揃えておりますので、事業所および個人に置かれましても専門的な運動評価のご依頼があれば、下記のアドレスまでご連絡を頂ければと思います。

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 先端作業療法学講座 入江 啓輔
irie.keisuke.8n@kyoto-u.ac.jp